はじめに
何かを決定する、というのは人生のあらゆる場面において現れる、避けられない行為です。しかし、自分の決定が本当に良かったかどうかで後悔することは誰もが経験することだと思います。
決定は個人に限らず、組織活動においても発生します。個人の決定は当人が納得できれば十分ですが、組織活動における決定は、場合によって他者に迷惑をかけてしまうことも多いです。組織活動における決定は組織としても後悔がない決定をする方が望ましいですが、その決定自体は組織に属する個人が下さなければなりません。
責任のある決定を後悔なくできるようにする助けとして、システマティックに決定する方法を紹介したいと思います。この方法は我流なので、「こういう決め方があるよ」というものがありましたら紹介いただけると幸いです。
決定に関する良くある悩み
決定することを苦手とする人は多いと思います。一般論として決定には以下のような悩みがあります。
- 決定に対して周りの不興を買う
「なんでそんなことになってるんですか」っていわれてタジタジになるやつです。
- 決定したことが他者に覆される
「そんなことより、こっちの方がいいんじゃない」って違う立場の人に覆されるやつです。
- 状況が変わっても、一度決まった決定が変わらない
「決まったことだから、今さら異論を挟まないでよ」っていわれてモヤモヤするやつです。
- 自分の決定が通らない
「それだと希望に満たないから、もっと考えられないの?」っていわれて悲しくなるやつです。
良い決定
「良い決定とは何か」の問いには様々な考えがあると思います。その解の一例として、組織活動における「良い決定」とは「再現性があること」である、と提案します。
「再現性がある」とは、ざっくり説明すると「誰でも同じ決定が下せること」を指します。
もちろん、ざっくりした物事に対して、ただ決めるだけでは人の数だけ異なる決定が下されます。そのため、「再現性がある決定」をするためには、「同じ目的に対して」「同じ条件が揃ったときに」「同様の候補が並べられたときに」「同じ評価基準が揃っていれば」誰もが同じ決定を下せること、を指します。
そのため、「再現性のある決定」をするためには「目的を明確にして」「決定に必要な条件を洗い出して」「十分な候補を考えて」「決定に必要な評価基準を揃える」必要があります。
システマティックな決定
システマティックな決定は以下のような手順を想定しています。
- 目的を定める
- 決めるものを定める
- 条件を洗い出す
- 候補を集める
- 評価基準を定める
- 評価する
- 評価基準の優先度を定める
- 3~7を何回か実施する
- 総合的に判断する
大抵の方は感覚的に実施している内容だと思います。今回は細かく整理しますが、必ずしも毎回細かく整理する必要はない、と思います。訓練目的や特に重要な決定の時に整理できればいいのではないでしょうか。
1. 目的を定める
その決定は何のために決めるのか、を明らかにします。
> 例)
> 〇月〇日のイベントに参加するため仙台から東京へ移動したい
2. 決めるものを定める
何を決めなければいけないかを定めます。複雑な内容になるとブレやすいので、先に明らかにしておくと良いでしょう。
> 例)
> 移動方法を決めたい
3. 条件を洗い出す
決定に影響する条件を洗い出します。これがどれだけ明らかになるかで良い決定が左右される、といっても過言ではありません。
> 例)
> 友人含めて3人で移動する
> 出発時間は早めでも構わない。時間的には余裕がある
> etc.
4. 候補を集める
決定案の候補を集めます。このとき、明らかに目的に合わないような候補でも挙げてみるのをオススメします。ダメな候補がなぜダメかを後工程で明瞭にできると最終的な決定の自信に繋がります。
> 例)
> 青春18きっぷ
> 高速バス
> 新幹線
7. 評価基準の優先度を定める
評価基準の中から何を優先するかを決めます。単純に優先度の上下関係が決まるのが理想ですが決まらないことも多いです。大まかな優先順の上下感やトレードオフの関係が掴めれば良いです。
> 例)
> 時間に余裕があるから移動時間の優先度は低い
> 疲労は抑えたいけど、お金も抑えられるなら抑えたい(疲労とお金はトレードオフの関係)
8. 3~ 7を何回か実施する
7まで考えた時に、出てきた候補がどれもしっくりこないときや評価基準以外の要素で決定しようとした場合、3~7の何かが抜けている場合があります。抜けている要素に気付いたら、これまでの検討に新しい要素を加えて、再度見直しましょう。
> 例)
> 青春18きっぷや高速バスは安いけど、車内で会話するのができなさそう。
> 自家用車を使えば、運転手の負担はあるけど、安くて会話しながら移動できる。
9. 総合的に判断する
条件や候補、評価基準を出し切った、と判断したら最終的な決定を行います。評価をスコア化して一意に決まるのは理想ですが、実際には難しいので、決定した理由を表現できると良いでしょう。
> 例)
> 移動手段は自家用車とする
> 3人で移動するため、車内で会話しながら旅行気分で移動できる。また、運転手役から負担も構わない旨の了承を頂いた
システマティックな決定の利点
- 決定のプロセスに対してフィードバックできる
決定の良し悪しはその時点では判断できなくて、何かの問題が起きた時に分かることが多いです。過去に戻って決定を覆すことはできませんが、問題が起きた時に「どうすれば当時良い決定ができたか」を振り返ることはできます。システマティックに決定していた場合、足らなかった条件、候補、評価基準が判明していることが多いので、次回以降の対策を立てることができます。
- 決定を共有できる
整理された条件、候補、評価基準は他者に共有することが簡単です。特に組織活動において、これまで事情を知らない人が加わったときにいくつかの決定事項を納得してもらうことは時間がかかる場合があります。「こういうことを整理して、こういう理由で決定した」と決定の過程を説明できれば、他者からの理解を得やすくなります。
- 過去の決定を破棄できる
決定というのはある時点のものであり、状況が変わればその決定が適さない場合があります。システマティックな決定方法であれば、新たな情報に対して最善の決定を下せるのに加えて、「過去の時点で最適だった決定が、状況の変化で最適ではなくなった」ことが説明できます。納得感のある方針転換ができるようになります。
- 他者の決定を推測できる
他者に決定してもらうために提案をすることは組織活動において良くありますが、システマティックに他者の決定を類推することができます。他者の条件、候補、評価基準を類推して、「相手だったらどんな決定を下すか」をシミュレーションすることができます。類推なので実際の相手の決定とはずれる場合がありますが、システマティックな方法であれば、ずれを修正することでより良い提案を作り上げることができます。
おわりに
自分は優れた決定ができている、と思い込みたいときは良くあります。ですが、実際として私たちは思いついた選択肢の中から、最も"マシ"なものを決定するしかできないものです。であれば、その決定に対して根拠を明瞭にして、失敗したときにフィードバックすることで、次はもっと"マシ"な決定ができるようになるのだと思います。小さい決定の改善を繰り返して、少しずつ良い決定ができるようになっていったとき、周りから見て優れた決定ができるようになっている、といいなぁと思います。