はじめに
2022/5/27(金)にJaSST'22 Tohokuがオンサイト(いわて県民情報交流センター)/オンラインのハイブリッド開催されました。
この会のワーク担当として活動していたので、ワークショップの作成/運用話をまとめます。こちらは後編になります。
前編はこちら。
toshimana.hatenablog.com
内容は以下となります。
【前編】ワークショップ概要
【前編】何でゲームブック形式のワークショップを作ることになったのか
【前編】ワークショップ設計プロセス
【後編】ワークショップで使用したツール
【後編】ワークショップ運営の工夫
【後編】ワークショップ後日談
【後編】おわりに
【後編】おまけ
ワークショップで使用したツール
今回のワークショップで主に使用したツールは以下になります。
- PowerPoint:プレゼン資料作成(ページリンク)
- Discord&Quick Poll:投票機能
- voicepeak:音声作成
PowerPoint
みんな大好き、Windows OSでのプレゼンテーション資料作成のデファクトスタンダード。
ゲームブックだと「○○ページへ移動する」という形式が多いですが、ワークショップで同じように実施するには操作が煩雑になります。そのため、今回はPowerPointのリンク機能を使用して、リンクをクリックすることでページが遷移できるようにしています。ワークショップ中には解説で問題といったりきたりしたり操作ミスが発生したりするので、ジャンプ元とジャンプ先は相互移動できるようなリンク実装を意識していました。
Discord&Quick Poll
オンサイトとオンラインのハイブリッド開催であるJaSST'22 Tohokuでは実行委員や発表者、参加者間のコミュニケーションツールとしてDiscordを使用しています。いろいろな使い方をしていますが、ここではワークショップの利用に絞って説明します。
ワークショップの要として参加者による選択肢の投票があります。Discordに投票機能を持つbotアプリを導入することで実現しています。いくつかある筈ですが、今回は高機能アンケートbotであるQuick Pollを使用しています。
Quick Pollを利用することで、Discordのリアクションを使って投票を行うことができます。Discordの場合は既存のリアクションがある場合、他の人がそのリアクションアイコンをクリックするだけでリアクションを行うことができます。Quick Pollは選択肢のリアクションアイコンを用意してくれるので、参加者は自分が選んだ選択肢に対応したリアクションアイコンをクリックするだけで投票できるようになります。また、Quick Pollは排他投票(最大どれか1つにしか投票できない)の機能があるため、すべての選択肢を選ぶことを抑制できます。
また、Quick Pollでは投票をある時点で集計することができます。ワークショップでは進行のタイミングで投票数を確定させたいため、集計機能によって投票数を確定させました。投票数や割合も表示することができます。
余談ですが、Quick Pollは選択肢番号がデフォルトでA, B, C, ... だったため、プレゼン資料上での選択肢番号もA, B, C, ... に合わせています。
voicepeak
商用利用も可能な入力文字読み上げソフト*1です。シナリオを読み上げるために使用しています。今回の切り札。
本ソフトは「最新のAI音声合成技術を搭載し手軽に読み上げさせることが可能な」ことを特徴として挙げており、テキストをそのまま渡すだけで自然な音声で読み上げてくれます*2。ワークショップ中で実行委員がシナリオを読み上げる負担の軽減に役に立ちました。また、ナレーターとして6種類の音声*3が使えるため、シナリオのキャラクターごとに音声の使い分けも行うことができました。音声出力形式は.wav or .flacになり、出力した音声ファイルをPowerPointでプレゼン資料に埋め込んでいます。
本ソフトのライセンスは1つしか購入していないので、音声ファイルの作成担当者が一人に限定されるのは事前想定が甘かったところです。また、音声ファイルのデバッグは聞かないと分からないため、大変でした。
ワークショップを開始した直後はソフトによる音声に驚きがありましたが、終わるころには特に音声についての苦情などはありませんでした。それだけ自然な読み上げができていたんだと思います。
ワークショップ運営の工夫
ワークショップ運営の工夫として準備したことを挙げます。
問題の選択は知識の正否ではなく、行動の決定とする
「【前編】ワークショップ設計プロセス」にも記載をしていますが、選択肢は「どういう行動をとるか」ものとしています。
今回は折角のシナリオ形式になるため、参加者は主人公の体験を疑似的になぞる形になります。その利点を活かして、選択肢は「どういう行動をとるか」を意識して設計しています。知識は学んで身につけることはできますが、知識は行動に移さなければ発揮されないものだと思います。そのため、本ワークショップでは「正しい知識に沿って正解を選ぶ」ではなく「知識を使って行動を選ぶ」形式にした、という狙いがあります。
今回は上手くいったかは分かりませんが、ゲームブック形式のワークショップが「行動選択を疑似体験できるもの」として成立しているのであれば、真剣に掘り下げる価値のあるワークショップスタイルだと言えそうです。
正解の選択肢に技術的な根拠を用意する
こちらも「【前編】ワークショップ設計プロセス」にも記載をしていますが、テスト自動化に関する技術があれば正解の選択肢を選べるようにしています。
ゲームブックという形式をとっていますが、あくまでテスト自動化導入を学ぶためのワークショップとして作成しています。正しい知識を身につければ正解が選べるし、誤った選択肢を選んだ場合は知識を身につける機会になればいいなぁ、という期待を持って設計しています。そのため、簡単ですが各問題に正しい選択肢を選ぶための解説を用意しています。
ゲームとしてみた場合には、技術的に正しい選択肢を取ったのに、理不尽にBAD ENDに向かうようなケースもあるかとは思います*4。しかし、「状況を良くするためには正しい知識が必要である」ようにあってほしいと思っているので、今回は知識があれば正解の選択肢を選べるようにしています。本ワークショップで「正しい知識があっても無くても失敗するなら、正しい知識は不要である」とは思ってほしくなかった、というところもありました。
読み上げソフトによる音声や投票機能をワークショップでいきなり実施しない
本ワークショップでは読み上げソフトによる音声や投票機能など、参加者が普段使い慣れないものを使用しています。そのため、ワークショップ開始時点でそれらに初めて触れると、新しいことに気が散ってしまって問題に集中できない懸念がありました。
そのため、JaSST'22 Tohokuでは実行委員長による会のオープニング(アイスブレイク)で、読み上げソフトによる音声や投票機能を使用してもらいました。参加者にはワークショップより前に使い慣れない要素に触れてもらうことで、本番であるワークショップに集中してもらいやすくなるように設計しています。
ワークショップ後日談
ワークショップが終わった後の後日談的内容です。
雑談チャンネルが凄く盛り上がった
Discordにはチャンネルをいくつも作ることができて、JaSST'22 Tohokuでは「雑談」「ワークショップ」「質問」「アンケート」など用途に合わせてチャンネルを用意していました。ワークショップでは投票を行う「ワークショップ」チャンネルを中心に扱っていましたが、投票外の時間で参加者のみなさんが「雑談」チャンネルで活発な意見を述べてくれたのがとても嬉しかったです。「これはあるあるだよね」「こんな選択肢もあるんじゃない」みたいな技術的な内容に切り込んだものから「バッドエンドに持っていきたい」「背景の立ち絵は誰なんだ」みたいなゲームブックとしての楽しみに関するものまで入り乱れて様々な書き込みをしていただきました。嬉しい誤算です*5。
ワークショップ中は前で発表していて「雑談」チャンネルを見る余裕がなかったので、終わってから「雑談」チャンネルを見て一安心しました*6。
シナリオ消化率
JaSST'22 Tohokuのワークショップでは用意した4シナリオ中2シナリオを実施しました。2シナリオはいずれもすべて正解選択肢を選ばれたため、ストレートにシナリオを消化しました。終わった後に、1つの分岐の失敗選択肢(BAD END)も試してみるようなこともやっています。
スライド消化率/シナリオ消化率は25.5%でした。50ページ/196ページになります。資料は公開予定なので、公開されたら是非残りのシナリオも見てみてください。
おわりに
ゲームブック形式がどのように受け入れられるか分からない状況で進めていましたが多くの人に受け入れられたので、改めてやって良かったと感じています。実行委員として多くの人に学びがあるように準備してきたものが、遊べるに足る形で披露できたので個人的にも満足度が高いワークショップになりました。