全体最適化の手法として有名なTOC(制約理論)にはDBRやCCPMのようにいくつかの方法論がありますが、その一つであるマフィアオファーについて @NoriyukiMizuno さんからお話を伺いました。
マフィアオファー*1とは営業方法論であり、魅力的で断りづらい提案を行うための方法です。面白そうな技法ですが、資料が少なくて独学で習得するのが難しい技法でもあります。今回は @NoriyukiMizuno さんが独自改良として、別のモデリング技法(VPC,BMC)と組み合わせた手法も踏まえて説明頂きました。
私は開発者ですが、マフィアオファーはよくある他社向け営業だけでなく技術提案などの内部営業(?)にも有効とのことなので、色々実用が出来そうだという期待を胸にお話を伺いました。
抵抗の6階層
人がソリューションを提案されたときに、以下のような6つの抵抗が生じるそうです。マフィアオファーではそれらを上から順に解決方法を検討し、最終的に顧客が納得しやすい提案を検討します。
- 【ソリューションと問題のマッチング】問題の存在に合意しない
- 【ソリューションと問題のマッチング】ソリューションの方向性に合意しない
- 【ソリューションと問題のマッチング】ソリューションが問題を解決できると思わない
- 【実現する際のリスク】ソリューションを実行するとマイナスの影響が生じる
- 【実現する際のリスク】ソリューションの実行を妨げる障害がある
- 【変化したことに対する影響への不安】その結果起こる未知のことへの恐怖
マフィアオファーでは最終的に提案内容を「マフィアオファーシート」にまとめるのですが、今回は特に「1~3」について着目してお話を伺っています。
VPC, BMC
VPCはValue Proposition Canvas, BMCはBusiness Model Canvasであり、どちらもスタートアップ(起業)系で知られている技法です。抵抗の6階層の「1~3」を整理するために、@NoriyukiMizuno さんがこれらの手法を用いる手法を提案しています。
バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る
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各モデルは以下のような関係になりそう、とのことです。
- VPC:ソリューションの「価値」
- BMC:ソリューションの「具体化(実現)」
- マフィアオファー:ソリューションの「検証」
VPCやBMCで整理した「価値」や「具体化」が有効かどうかを、マフィアオファーのフォーマットを用いることで「検証」するイメージです。
ワーク
マフィアオファーの勉強会のはずですが、実際はVPCのワークでした。とはいえ、ワーク自体は非常に効果的でした。
マフィアオファーは提案するソリューションの価値を提案者が十分に理解できている前提なので、参加者の実業務に合った提案をもとにVPCを検討しました。上手くいくかと思って始めましたが、提案対象者に対する価値と提案が上手く結びつかず非常に頭を悩ませる展開になりました。提案対象者をより明確に定義し、チームで提案対象者に対する価値を掘り下げることで最初よりも洗練された提案を挙げることができましたが、マフィアオファーで最も重要な「提案対象者の問題を解決できる提案を用意できるか」を深く考えさせられる形になりました。
終わりに
マフィアオファーは“魅力的で断りづらい提案ができる”という、提案者にとって魅力的な提案に聞こえる手法です。しかし今回のお話を伺って「提案対象者の抱える問題に対して真摯に向き合い、納得してもらった上で提案に同意してもらう」という王道な内容だと思いました。営業のスキルだけでなく問題分析の高いスキルも必要なので十分に扱いきるには訓練が必要です。マフィアオファーはソリューションの「検証」に向いているため、自分が他者に対して提案をしたいときにマフィアオファー(+VPC,BMC)を用いて、本当に価値のある提案になっているかをセルフチェックする目的で使っても面白いかと思いました。
*1:Unrefusable Offer(URO)ともいうらしい